米国による赤根智子ICC所長への制裁について、高市総理は記者団に対して「大変残念に思っております」と述べました。
私は、この言葉が日本の総理大臣の口から出されたことが信じられません。
赤根所長は、2016年、日本政府によってICC裁判官選挙の日本候補として正式に指名されました。当時、外務省も日本人がICC裁判官に選出されることについて、「国際社会における法の支配の推進にも寄与する」と説明しています。
つまり、日本政府自身が、法の支配への日本の貢献の一つとして赤根氏を国際社会へ送り出したのです。
これは国家戦略と言っていいでしょう。私は、この決断は素晴らしいことだったと思っています。
その後、赤根氏はICC裁判官に選出され、2024年にはICC所長に選ばれました。日本国民としては、誇らしいことでした。
そして今年1月、高市総理は赤根所長本人に対して、日本政府として「ICC及び赤根所長を力強く支援していく」と伝えています。
その赤根所長が今、ICC所長として職責を果たす中で、米国政府から個人として制裁を受けています。
それに対して、日本の総理大臣が世界に向けて発した言葉が、
「大変残念に思っております」
です。
EUは今回の制裁について、ICCの活動を損なうものだとして、ICCとその職員を外部からの圧力や威嚇、干渉から守るため支援を続けると表明しています。フランス政府も、ICCとその職員に対する威嚇や強制的措置を非難し、赤根所長らへの連帯を表明しています。
その中で、最も強く抗議してもよいはずの日本が、これだけの反応とは、いかにアメリカの軍事的庇護の下にあるからといっても、信じられません。
国民も黙っているのでしょうか。
それともアメリカは、日本の政府も国民も、アメリカに面と向かって何も言えないだろうと高をくくっているのでしょうか。
もちろん、日本政府が表に出ないところで米国政府に様々な働きかけをしている可能性はあります。
実際、茂木外相も、米国に対してこれまでも様々な働きかけを行ってきたと説明しています。
しかし、それと日本政府が世界に向かって何を言うのかは別の問題です。
外交は、相手国との非公開の交渉だけで行われるものではありません。
日本政府の公式発言は、米国だけが聞いているわけではありません。
ICC加盟国も、欧州も、中東も、アジアも、世界中の国々が見ています。
日本はこれまで「法の支配」を外交の重要な原則として掲げてきました。
その日本政府が、自ら候補者として指名して国際社会へ送り出した日本人が、その法の支配に関わる職務を果たす中で、外国政府から個人制裁を受けたのです。
それに対して日本政府は、公に「大変残念」というだけで済ますつもりでしょうか。
これはICCを守るという問題だけではありません。
日本政府は、日本政府自身が国際社会へ送り出した日本国民を守っていると言えるのでしょうか。
さらに、日本政府は今年1月、赤根所長本人に「力強く支援する」と伝えています。
実際に赤根所長が支援を必要とする事態になった今、日本政府は何をするのでしょうか。
「力強く支援する」と伝えたあの言葉は、嘘だったのでしょうか。
そして、もう一つ考えなければならないことがあります。
今年2月の総選挙で、高市政権の与党は大勝しました。
だからといって、今回の対応まで国民一人ひとりが具体的に信任したことにはなりません。
しかし、世界からはそう単純には見られません。
民主主義の仕組みによって選ばれた政府が、日本という国家を代表して「大変残念」と表明し、少なくとも公には制裁解除を強く求めない。また、それに対して日本国民が静かであるとしたら、それは国際社会から見れば、日本という国家の意思と見られます。
つまり、民主主義国家である以上、その政府を選んだ日本国民の意思として受け取られる可能性が非常に高いのです。
私たちが、
「そんなことまで選挙で信任した覚えはない」
と言っても、世界の国々には分かりません。
これはNo.29で考えた米国についても同じです。
民主主義国家の政府が国家として行ったことについて、国民は「政府が勝手にやったことで、自分たちには関係ない」と完全に切り離すことはできません。
だからこそ、政府が世界に向けて何を言うのかは重いのです。
日本政府が米国との関係を考え、あえて抑制した表現を選んでいるのであれば、それも一つの外交判断でしょう。
しかし、その言葉が世界からどう受け取られ、日本という国家への信用にどのような影響を与えるのか。
そこまで覚悟した上での判断なのでしょうか。
米国は日本にとって極めて重要な同盟国です。
だからこそ難しい問題であることは理解できます。
しかし、相手が米国であれば、自ら掲げてきた原則についても明確な意思を示せないのであれば、日本の言う「法の支配」とは何なのでしょうか。
世界は、日本が何を言うかを見ています。
そして、日本という国家が本当に信用できる国なのかを判断しているのではないでしょうか。
同時に、私たち日本国民も、日本政府が何を言うのかを聞かなければなりません。
そして、この政府を本当に信頼してよいのかを、私たち自身が見極めなければならないと思います。