政党間の約束は、国民との約束なのだろうか。
今回は、議員定数削減法案の成立過程を通じて、民主政治のあり方について考えてみたいと思います。
議員定数を削減すること自体については、賛成する人は少なくありません。
世論調査でも、「衆議院議員を1割削減する」という考え方には、一定以上の支持が示されています。
したがって、今回考えたいのは、議員定数を減らすべきか、減らすべきではないかという問題だけではありません。
私が疑問に思うのは、この政策がどのような過程で現在の形になり、それを「国民から信任された公約」と説明することが、本当に妥当なのかということです。
議員定数削減は、もともと日本維新の会が強く主張してきた政策です。
これまでの経緯を時系列で整理すると、次のようになります。
2025年10月
首班指名への協力要請を受けた際、維新は、国会議員定数を1割削減すること、並びにその法案を臨時国会で成立させることを政策要求に盛り込みました。
その後
衆議院議員の定数を1割削減すること、並びに臨時国会で法案成立を目指すことが、自民党と維新が締結した連立合意に明記されました。
その後
自民党は、連立合意に基づく定数削減を、2026年の総選挙公約に明記しました。
つまり、定数削減という方向性そのものは選挙前から示されていました。しかし、具体的な内容や成立までの道筋は、連立協議や選挙後の調整を経て変化していったことが分かります。
しかし、公約に書かれていたことと、その公約の具体的な内容や実現方法まで国民が選んだこととは、同じなのでしょうか。
提出された法案の内容も、選挙の前後で変わっています。
選挙前に提出された法案
結論が出ない場合、小選挙区を25、比例代表を20削減する。
選挙後に提出された法案
結論が出ない場合、小選挙区は削減せず、比例代表だけを45削減する。
「議員定数を1割削減する」という方向は同じでも、その方法は大きく異なります。
比例代表は、小選挙区では当選しにくい少数政党や、多様な意見を国会へ反映する役割も担っています。
その比例代表だけを45削減する案まで、総選挙で国民が信任したと説明できるのでしょうか。
今回の経緯を整理すると、
・維新が連立協議の条件として定数削減を要求した。
・自民党と維新が、目標と成立時期を連立合意で決めた。
・自民党は、その連立合意に基づく政策を選挙公約に掲げた。
・総選挙後、具体的な削減方法が変更された。
・その新しい法案を「公約実現」として成立させようとした。
以上のことが確認できます。
連立協議は、政権をつくるために必要な政治過程です。
政党が選挙公約の実現を目指すことは、ある意味当然でしょう。
しかし、政党間で行われた交渉の結果と、選挙前に国民に示された内容とは、同じとは言えません。
選挙後に具体的な内容が変更された法案まで含めて、「総選挙で信任を得た」と説明するのは無理があり、そこにはかなり丁寧な説明がされなければならないでしょう。
世論調査で定数削減そのものに賛成する人が多いことも、無視してはなりません。
一方で、国民が支持したのは「1割削減」という大枠なのか、比例代表だけを45削減する具体案なのか、政党間交渉で決めた期限まで含むのかは、分けて考える必要があります。
今回の法案は、今国会での成立が見送られました。
しかし、この問題が私たちに投げかけている問いは残ります。
連立を組むために政党間で交わされた約束は、総選挙を一度経ることで、そのまま国民との約束になるのでしょうか。
そして、公約に書かれていたというだけで、選挙後に決められた具体的な内容まで、すべて「民意」と呼ぶことができるのでしょうか。
議員定数削減問題は、定数の多い少ないだけではなく、
政党間の合意と国民の意思は、どこまで同じものと考えてよいのか。あるいは、様々な政策が公約に掲げられている時に、一度の選挙ですべての公約が信任されたとして政権運営を行ってよいのだろうか。
そのような、民主政治の根本に関わる問いを私たちに投げかけているように思います。