「コメ政策失敗のツケを、また国民が払うのか」
昨年、コメ不足によって価格が大きく上昇しました。
それまで5kg2,000円程度で買うことのできたコメが、4,000円を超えるようになりました。
政府は緊急の対策として備蓄米を放出しました。しかし今年、早速、昨年産の米を備蓄米として買い戻そうとしています。
これは、減少した政府備蓄を元に戻そうとしているという単純な話ではありません。
なぜ米不足だった日本が、わずかな期間で米余りとなったのか。それほど生産のブレは大きいのでしょうか。
コメの需要は、本当はどれだけになっているのか
日本では長期的にコメの需要が減少してきていたことは事実でしょう。
しかし、直近では少し需要が回復していたという事実を、どれだけの人が認識しているでしょうか。
農林水産省によると、主食用米等の需要量は、
2022年7月~2023年6月 691万トン
2023年7月~2024年6月 705万トン
2024年7月~2025年6月 713万トン
と、2年続けて増加していました。
外食や中食の回復、インバウンドの増加など、様々な要因が考えられます。高温障害による精米歩留まりの低下も、玄米ベースの需要量に影響していた部分はありますが、少なくとも国産米の需要が実際に増えていたことは確認できます。
ところが、2025年7月~2026年6月には、その需要量が683万トンまで減少しました。
前年の713万トンから、一年間で30万トンも減ったことになります。
これは単純に供給量が減ったからではありません。備蓄米の放出もありましたし、令和7年産米の生産量も増えました。つまり、国産米に対する需要そのものが大きく減ったのです。
これまでほとんどなかったSBS米以外の枠外輸入米、つまり高い関税を払ってまで輸入する米も急増しました。
期間や用途が完全には一致しないため厳密な消費量比較はできませんが、枠外輸入米が約10万トン規模まで増えたにもかかわらず、国産米の需要は大きく減少しました。
農林水産省も、需要が想定を下回った背景として、高い米価や民間輸入の増加などの影響を挙げています。
だとすれば、コメが余るようになったのは、本当に作り過ぎたからなのでしょうか。
価格高騰による消費者や外食産業などの国産米離れが、非常に大きかったのではないでしょうか。
なぜ備蓄米は、なかなか出てこなかったのか
もう一つ、昨年の備蓄米放出を振り返ってみたいと思います。
江藤農水大臣の下で、政府は一般競争入札によって備蓄米を放出しました。
最初の入札では、約14万2千トンのうち全農だけで約94%を落札し、JA系を合わせるとそのほとんどを占めました。
ところが、備蓄米はなかなか消費者まで届きませんでした。
全農については約19万9千トンの販売先との契約を終えていたにもかかわらず、5月8日時点で実際に出荷されていたのは約6万3千トンでした。
政府からは、倉庫からの搬出、トラックの手配、精米、袋詰めなど、物流上の問題も説明されました。
確かに、一度に大量の備蓄米を放出すれば、一時的に物流上のボトルネックが発生することはあるでしょう。
しかし、政府が備蓄米を放出したのは、本来市場にあるはずの米が不足していたから、その不足分を補うためだったはずです。
日本人が突然、それまでより何十万トンも多く米を食べ始めたわけではありません。
本当に米が不足し、一刻も早く国民に届けることを最優先する必要があったのであれば、やりようはいくらでもあった筈です。
実際、それはできました。
大臣が替わると、やり方も変わった
小泉農水大臣になると、予定されていた一般競争入札を中止し、随意契約によって大手小売業者などへ直接売却する方法へ変更しました。
すると、説明開始から24時間も経たないうちに19社から約9万トンの申込みが入り、一部では数日後には備蓄米が店頭に並び始めました。
小泉大臣自身、これを「随意契約という政治判断」と説明していますが、物流上の問題等の条件は基本的には変わっていません。流通経路と制度を変更しただけです。
それだけではるかに早く消費者へ届けられるようになった。これは否定できない事実です。
だとすれば、それ以前は本当に「できなかった」のか、従来の仕組みを変えてまでやろうとしなかったのか、それとも従来の仕組みを言い訳に時間稼ぎをしたかったのか。
私は、この疑問を拭うことができません。
ところが今度は、急いで21万トンを買い戻そうとしている
国産米の需要は713万トンから683万トンまで、30万トンも減少しました。
6月末の民間在庫は243万トンとなりましたが、令和8年産米も十分な供給量が確保される見込みというだけで、確定もしていない段階で、政府は昨年放出した備蓄米のうち21万トンの買戻し手続きを9月中に始めるとしています。
何故、急ぐ必要があるのですか。
政府備蓄が大きく減った以上、食料安全保障のために備蓄水準を回復する必要があることは理解できます。
しかし、なぜ今なのか。
昨年の売却には「5年以内に買い戻す」という条件が付けられています。
米価が以前よりなお高い水準にある中で、今、急いで買い戻す理由は全くありません。
農水大臣の記者会見では、産地から概算金が出る前の買戻しを求める声があったことも指摘されています。
昨年、米価が上がった時には、市場へ米を出すことにはあれほど時間がかかった。
ところが、米の民間在庫が高くなり、価格低下の可能性が出てくると、今度は政府が市場から急いで21万トンを吸い上げようとする。
しかも当初予算では15万トンとしていたものを、21万トンにしてです。
なぜ、米価を下げる方向の政策にはあれほど慎重だったのに、米を市場から吸い上げる政策にはこれほど早く動くのでしょうか。
しかも、買戻しは随意契約
さらに疑問なのが、その買戻し方法です。
政府は今回の21万トンを、一般競争入札ではなく、何故か見積り合わせによる随意契約で買い戻すとしています。
しかも問題は価格だけではありません。
誰から買い戻すのでしょうか。
昨年「5年以内に買い戻す」という条件付きで政府から備蓄米を購入した事業者からです。
そして、昨年の最初の入札では全農だけで約94%を落札し、JA系がそのほとんどを取得したことを忘れてはなりません。
つまり、政府がほとんどJA系が占める大手集荷業者を中心に備蓄米を売却し、今度はその買受者から、このタイミングで随意契約で買い戻すという構図になります。
昨年の時点で買戻しの仕組みは決まっていたので、今回の随意契約は、その取り決めに従っているとは言えます。
しかし、なぜ昨年、そのような契約にしたのかという疑問は残ります。
国民の税金を使って大量の米を購入するのであれば、条件を満たす米を最も安く提供できる事業者から競争入札によって購入する方法であるべきです。
そうしないのであれば、そのことを国民に分かり易く説明する責任は政府にはあるでしょう。
実際、政府は令和8年産の新たな備蓄米21万トンについては、入札による買入れを進めています。
なぜ、今回の21万トンだけは昨年の買受者を対象とする随意契約なのでしょうか。
予算に入っていれば、それでよいのか
今回の買戻しには当然、国のお金、つまり税金が使われます。
備蓄米買入れは、食料安定供給特別会計の食糧管理勘定で処理されているので、予算もないまま自由に米を買えるわけではありません。
しかし、この問題は「予算の範囲内だから問題ない」で終わらせて良い問題ではありません。
**誰から、いくらで、なぜ今買うのか、**が問題です。
60kg当たり5,000円違えば、21万トンでは約175億円、10,000円違えば約350億円。そして、それ以上の差が出る可能性もあります。
昨年、政府はいくらで売ったのか。
今年、いくらで買い戻すのか。
そして、誰から何トン買い戻すのか。
これらの詳細はすべて明らかにしてもらわなければなりません。
政策失敗のツケを、また国民が払うのか
ここまでの流れを振り返ってみます。
需要の回復傾向が続いていた中で、需給がひっ迫し、米価が大きく上昇した。その後、備蓄米の放出が遅れたこともあり、令和7年産の概算金が跳ね上がり、結果として米価が高止まりしました。
備蓄米を放出しても、なかなか消費者まで届かなかった。
その後、流通方式を変えると、備蓄米は急速に店頭へ届き始めた。
その結果、高い関税を払って輸入する米が急増する事態になりましたが、それでも国産米の需要は一年で30万トンも減ったのです。
そして需要減に伴うコメのだぶつきによって民間在庫が積み上がり、結果として今度は、政府が早くも21万トンを市場から買い戻そうとしています。
しかも、昨年の買受者を対象とした随意契約です。
ここは、政府の説明責任が問われるところではないかと思います。
いくつもの疑問が残っています。
供給不足になった時に、何故早く動けなかったのか。
放出したコメが何故、すぐに流通しなかったのか。
何故、大臣が替わったら、急に動き出したのか。
何故、今の高値の時に買い戻すことになったのか。
何故、昨年の売渡し先から随意契約で買い戻すのか。
その政策は、誰がどのように決めているのか。
多くの国民が負担した多額のお金は、一体誰のところに流れたのか。
もし、一連の政策判断の失敗が重なって現在の状況が生まれたのだとすれば、
米価高騰のツケを消費者として払わされ、今度は買戻しのツケを納税者として払わされる。
そういう構図になってはいないでしょうか。
最後に、もう一度問いたいと思います。
コメ政策とは一体誰に向けた政策なのでしょうか。